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EP04「ここにあるもの」


 -11/29 PM08:02 福岡県沿岸部 "元"港区-

???「ったく、ドライヴァーのクセして何リネクサスの加勢してんだよ。」

 ふくれっ面をして、ぽっかりと削り取られた港区を見ながら少年が言った。若干残る港部分には多くの研究者が調査をしていた。

静流「彼は、まだあの機神を使いこなせていないようだな。
   今後もこうなるなら、彼にはドライヴァーを辞めてもらわねば。」
剛士郎「まぁまぁ、神崎君も寺本君も、そう鳳覇君を悪く言うのはやめておこう。」

 そういうと、剛士郎は緊急に張られたテントの方を振り向いた。

剛士郎「彼もそうとうきているみたいだ。」
???「・・・・・分からなくもないけどさ。」

 寺本と呼ばれた少年と静流もテントの中を見た。
 そこには設けられたパイプ椅子に座り、大きく猫背を描いて俯き、呆然としている少年がいた。
鳳覇 暁、この港区を消滅させた張本人だった。


EP04「ここにあるもの」


剛士郎「鳳覇君、まぁ何というか・・・・あれはちょっとした事故だ。
    我々はあれを機神の勝手な暴走として判断している、君の肉声録音も残っているからね。」
暁「・・・・・結局は俺の所為なんですよね。」

 今でも鮮明に頭に映る港を消し去った光。俺がアルファードに乗っていた以上、俺はアルファードの脳となった。
サンクチュアリ・ノヴァを放ったのも俺の指示になる。"暴走"なんかで済ませたくはなかった。

剛士郎「誰も君を責めはしない。
    逆に少ない"犠牲"で多くの人間を守ることができたんだ。」
暁「・・・・・・。」

 吉良のおっさんが言っているのはただの気休めだ。犠牲なんか出しては意味がない。

剛士郎「こういう言い方もあれだが、我々は戦ってくれたことに感謝している。」
暁「あなたは何が言いたいんですか!?
  また俺に戦わせて、犠牲を出して多くの人を守れって言うんですか!?」

 俺もとうとう吹っ切れてしまった。何が戦ってくれたことに感謝しているだ。
本当は厄介者だと思っているクセに。
 俺はさっきから検査スタッフや、この事件を一般人に見せないように封鎖する係りが愚痴を言っているのを数多く聞いた。
"街中であんなの使いやがって"、"もうちょっと上手く扱えよ"。

暁「もう俺は戦わない!どうせ俺は厄介者だ、誰かを殺すことしか出来ないドライヴァーだ!!」

 俺はパイプ椅子から立ち上がって、自宅へと向おうと車輪が少し歪んだ自転車に跨った。

輝咲「鳳覇・・・君・・・。」

 途中、榊の姿を見て一瞬立ち止まった。目をそらす榊。結局俺がこんな戦い方しか出来なかったことを残念に思っているのだろう。
嫌なヤツだ。戦わせておいて結果が違えばまた下を向く。
 下を向いて欲しくないから戦った。少しアイツに頼りにされてほしかった。だが今は――。

暁「・・・・・・悪かったな。こんな戦い方しかできなくて。」
輝咲「違う・・・違います!そんな事ありません!」
暁「もういいよ、もう"アレ"には乗らない。もう誰も悲しませない。」

 制止する輝咲の声を無視して、俺は前を向かずに自転車をこいだ。
 気がつけば、涙がこぼれていた。さっきアルファードの中で流しきったはずなのに。


-

輝咲「鳳覇君・・・ごめんなさい。」

 私はどんどん遠くなっていく彼の背中に呟いた。私は本当に最低な人間だ。

剛士郎「さて、どうしたものかね。」

 振り向くと、後に吉良司令が立っていた。

輝咲「私は・・・彼に謝りたい。」
剛士郎「さっきの話を聞く限り、鳳覇君の戦う理由には君の存在も含まれていたようだ。
    彼も君に謝りたいんじゃないかな。」

 私は彼に謝られる立場じゃない。私が彼を戦わせたのに。

輝咲「どういうことですか?」
淳「それは鳳覇君が"俺がやる!"って目をしてたからだよ。」

 私の問いに吉良司令ではなく佐久間さんが答えた。

淳「彼が出撃する時の目を見たけど、やる気があったね。
  きっと君の期待に応えたかったんじゃないかな、彼も男だし。」

 佐久間さんは腕を組みながら一人で頷いていた。どうやら女子には分からない男子の世界があるようだ。
そうすると、鳳覇君もその逆なのだろうか。私は解決の糸口が少し見えた気がした。

輝咲「・・・・私、鳳覇君に会ってきます。」
剛士郎「今はやめといたほうがいいと思うな。
    鳳覇君はどうやら自宅へ向ったみたいだ、後は高田君とやらに任せてみよう。」


 -同刻 場所不明-

???「これでサンクチュアリの奪還は困難になったか。」

 一人の男がパソコンの画面を見ながら呟いた。

???「鳳覇 暁・・・・君はなんと普通でない人間なんだろう。」

 男はパソコンの電源を消した。モニターの灯りで照らされていた部屋は真っ暗になった。
窓の外から差し込む月明かりだけがかすかに部屋を照らしていた。

???「これも運命のいたずらかな・・・・・・ふっ。
    さて、これからどう出るか楽しみだ。」

 月明かりは、ニヤリと笑った彼の口元を照らした。


 -11/29 PM08:35 鳳覇家-

 ようやく辿り着いた家。誰も干渉しない聖域。だが、家の鍵は開きっぱなしだった。それに靴が多い。

暁「真・・・。」

 俺は居間へ入ってみると、そこにはソファーに座って俯いている真が居た。

真「よぉ、じゃましてるぜ・・・。」

 真の反応は元気の欠片もなかった。

暁「どうしたんだよ。」
真「変なオッサンに腹殴られて気絶してた。」

 自分の腹をさすりながら言う。
 変なオッサンというのは多分吉良の事だろう。入れ違いになった所で機密保持のために気絶させられたところか。
頭がいっぱいなのに、こんなことを推測できた自分に正直驚いた。

暁「そっか・・・・悪いけど、1人にしてくれないか・・・・。」
真「お前、やっぱやばいことに絡んでるんじゃねぇのか?」

 1人になりたいのに、真の口からは質問が出た。

暁「答えきれる気分じゃねぇ・・・帰ってくれ。」
真「ふざけんなよ!!」

 左頬に走る痛み。真の拳がめり込んでいた。

真「お前、あの白い竜みたいなのに乗ってるんだろ!?」

 真がテレビを指差した。真の暗い姿で気付かなかったが、テレビには港区の模様が映し出されていた。
きっとさっきまではアルファードやエインヘイトの姿も映っていたのだろう。
 怒りに漲る真の顔、もう何も隠せやしない。俺が多くの人を殺したことも。

暁「あぁ、俺はあれに乗ってたさ!
  そしてさっき港ごと大勢の人の命を奪った大量殺人犯だ!!」
真「何で隠してたんだよ!!何で相談してくれなかったんだよ!!」

 真が俺の制服の襟を掴む。

暁「じゃあ言ったらどうなった!?言っててもどうせ俺は殺人犯になってんだ!」
真「そんなの分からねぇだろ!!」

 また真の拳が左頬にめり込んだ。その威力に俺は床に倒れた。

真「お前、俺が最後に言った言葉の意味分かるか?」
暁「・・・・っ。」

 "無理して普通から抜け出そうとすんなよ。"あの光景が鮮明に蘇る。つい数時間前に聞いた言葉なのに、ずっと前のような気がした。

真「俺はお前があれに乗ってたって構わない、ただ自分を見失ってほしくなかったんだ。」
暁「自分を見失う・・・・。」

 そうだ、俺はあのとき自分を見失っていた。後先考えずに、ただ目の前の敵を倒すことだけを考えていた。
真や榊の事を思ったのも、その気持ちを加速させただけにすぎない。

真「高校入って、初めて話した日の事・・・・覚えてっか?」
暁「・・・。」

 俺はただ頷いた。

真「お前は何にも自分の事話さねぇし、ちょっと絡みづらいヤツだったよ。
  初めて話したときもお前言ってたよな"普通な毎日が嫌だ"って。」
暁「・・・・・あぁ、あの時は本気でそう思ってた。」

 痛む頬をさすりながら言った。

真「正直、俺はお前の口からその言葉が出た時、お前のことウザイって思った。」
暁「・・・・初耳だな。」

 真は俺のことをどう思っているのか、深く考えたことは無かった。考えなくても分かる、それが友達ってヤツだと思っていたから。

真「普通普通っていうけど、お前は俺等からみたらそうとう普通じゃないヤツだったんだぜ?
  一人暮らしして、家事もできて、親はでかい会社入ってるし。」

 俺は黙って真の話を聴き続けた。震えながら話す真、目には涙が浮かんでいた。

真「昼は辛党で夜は甘党とか、運動あんまりしないのに持久力あったり、オマケに"鳳覇"なんて珍しい苗字まで持ってんじゃねぇか。」

 真の目から涙がこぼれた。その涙の意味を俺はまだ分からなかった。
 分かったことは、俺は結局普通から抜け出せていたのに、まだその巣に閉じこもっていただけだったということ。
自分だけを見て、周りを全然確認できていなかったことだ。

真「そのくせにお前は"普通が嫌だ"って。金持ちがもっと金欲しいっていってるのと同じようなもんだったんだぜ?
  でも、でもよ・・・・。」

 真が服の袖で涙を拭った。

真「お前を普通じゃないって思わせようって頑張ってみたら、何だか俺まで楽しくなってきてさ。
  結局はウザイなんて思った自分を後悔したぜ、お前と居るとほんと飽きなかった。
  俺だけじゃねぇ、恵奈だってお前と居ると一番嬉しそうな顔するんだぜ?」
暁「真・・・・。」

 急に自分が恥ずかしくなった。気付けば俺の目にも涙が溢れていた。

真「お前はそれでも普通から抜け出したいっていうけど、本気で俺はお前が羨ましかった。
  俺はお前が"憧れ"だった・・・・。」

 その言葉に俺は驚きを隠せなかった。真が俺に"憧れている"なんて。ずっと近くにいて何故気付かなかったのだろう。
いや、気が付かせまいと真は隠していたのかもしれない。

暁「でも、俺はお前が羨ましかった、お前が"憧れ"だった。」

 俺は思っていたことを、何も飾らずに言った。

真「あぁ、分かってる。だから俺はお前に"憧れられる"存在で頑張っていこうって思った。
  だから、お前も俺が"憧れた"鳳覇 暁でいろよ!」
暁「・・・・っ。」
真「今のお前は俺が憧れた"鳳覇 暁"じゃねぇ、ただの弱虫だ!」

 その言葉に、俺はアルファードの中で思っていたことが蘇った。普通から抜け出そうとしていたんじゃない。
俺は強くなりたかったんだと。

暁「俺・・・あれに乗った時、普通から抜け出すことって何なのか考えてた。
  答えは、俺は"抜け出す"ことと"強くなりたい"ってことを履き違えてただけなんだって思った。」
真「なら強くなれよ・・・。」

 涙でくしゃくしゃな真が、ぽつりと言う。

真「少ししくじったぐらいで弱音吐くような弱虫なんて、俺をがっかりさせんなよ。」
暁「・・・・。」

 俺は真が憧れだった、だが真は俺が憧れだった。もし立場が逆だったらどうなっただろうか。
俺はこんな真を憧れていただろうか。 

真「ここに居るのは誰だ?」
暁「・・・・・・俺は・・・。」

 人間から逸脱した存在、ドライヴァー。その言葉が重くのしかかった。

真「ここにあるのは"鳳覇 暁"だろ?
  なら俺が憧れる"鳳覇 暁"でいろよ、俺もお前が憧れる"高田 真"でいるから。」

 そうだ、俺は人間から逸脱しようが俺なんだ。俺を"鳳覇 暁"だと認めてくれる人がいる。俺は何も変わっていない。
大切なものを見失っていた。俺は何であろうと、ここにあるのは"鳳覇 暁"だ。

暁「真・・・・・。
  ・・・・・あぁ、なってやるさ。お前が憧れる"鳳覇 暁"に・・・・!」
真「おう!約束だぜ!」

 真が小指を俺の目の前に出した。

暁「指きりかよ。」
真「あったりめぇだろ!」

 俺と真は自宅に入って、初めて笑った。真の小指に絡ませた俺の小指。
 誓おう、俺は俺であると。憧れられる存在であろうと。弱音を吐く俺は捨てようと。

真「あぁ~、腹減った~!あの後から俺何も食ってねぇんだよ。」
暁「料亭鳳覇の夕食フルコースはドリンクバー付き5000円だぜ?」
真「高っ!!ってか金取るのかよ!」
暁「ははっ、冗談冗談、適当なのでいいな?
  俺も腹減ったし。」

 俺は台所へ行こうとした時、インターホンが鳴った。方向を90度回転させて、玄関へ向う。
ドアを開けると、そこには黒髪の少女"榊 輝咲"が俯いて立っていた。

輝咲「あの・・・鳳覇君・・・。」
暁「悪ぃ、さっきはなんか怒鳴ったりして。」

 ちょうどよかった、俺も飯を食ったら榊に謝りに行くつもりだった。

暁「自分の力が怖くなってさ、頭いっぱいで逃げることしか考えきれなかった。」
輝咲「謝るのは私の方です!私が戦いを急かしたから・・・・だから。」

 榊も目に涙を浮かべていた。

暁「気にすんなよ、俺はドライヴァーになっても"ここ"にいる。それで十分だ。
  それに・・・本当に戦う理由ができた。だからもう自分を見失ってアルファードを暴走させたりもしない。」
輝咲「鳳覇君は私を恨んでないんですか?」
暁「恨むってより、感謝してる・・・・かな。
  あの夜、君と会わなければ今の俺はここにいない。でも今の俺はここにいる。」
輝咲「鳳覇君・・・・。」

 そう、あの夜俺は榊 輝咲と出合った。そしてアルファードのドライヴァーとなった。だからこそ真の本音を聞くことをできた。
そしてその本音で、俺は本当の俺を見つけることができた。

暁「そうだ、榊さんも飯まだだろ?
  今から作るから一緒に食べるか、余計なの1人いるけど。」
真「きーこーえーてーるーぞ~。」

 奥から真の空腹で死に掛けている声が聞こえた。

輝咲「いいんですか・・・?」
暁「あぁ、だからあの話はコレで終り。
  もう謝ったり、不安そうな顔するのはやめようぜ。
  さ、居間で待っといて。」

 そう言って俺は台所へと向った。


-
 
 私は鳳覇君がまるで別人に見えた。でも、今までの鳳覇君よりずっといい。
 鳳覇君は私が思っている以上に凄い存在なのかもしれない。ドライヴァーという足枷さえも加速に変えているような。
私は鳳覇君と出会えてよかった。
 もし鳳覇君がこれから挫けることがあったら、私も助けてあげよう。私も彼の感謝でこんなにいい気持ちになれたから。

暁「暖房入れたから早く入って来いよ~。」
輝咲「あっ、おじゃまします。」

 私は靴を脱いで、居間へと入って行った。とても暖かい家だった。


-

 -11/29 PM09:03 鳳覇家 居間

暁「はい、お待ちどさん。」

 朝に吉良のおっさんと榊が居たおかげで、冷蔵庫の中は淋しかった。今日は質素に米と味噌汁と豆腐と野菜炒めだ。 

真「いっただきま~す!」
輝咲「いただきます。」

 真は俺が茶碗をテーブルに置いた直後に食べ始めた。これぐらい元気がなければ、やはり真ではない。

真「そうだ、自己紹介まだだったな。
  俺"高田 真"よろしく!」

 真が榊に向って気持ち悪いウィンクを飛ばした。

輝咲「申し遅れました。私"榊 輝咲"です。こちらこそよろしくお願いします。」

 打って変わって榊はペコリと礼儀正しくお辞儀した。

真「いやぁ~、でも暁も隅に置けなくなったなぁ~こんな美少女ちゃんと知り合いなんて。」
暁「ぶっ!ば、馬鹿野朗!何言ってんだ!」

 俺は飲んでいたお茶を噴出しそうになった。美少女な所は否定しないが、知り合いというレベルの問題ではないのは確かだ。
かといってアレやコレやまではいってないが、仕事上の付き合いと言うのだろうか。必死に弁解の言葉を探す俺は、一体何を焦っているのだろう。
 一方の輝咲は顔をコレでもかというほどに赤らめている。

真「はっはっは、まぁ皆には内緒にしとくからさ!
  暁、おかわり頼む。」
暁「早っ!?」

 ニコッと微笑みながら空の茶碗を差し出す真。いつの間に食べたのか、驚愕のスピードだった。
 
 そんなこんなで久々の楽しい夕食はすぐに終った。大勢で食べたのは何日ぶりだろうか。

真「いやぁ~食った食った、んじゃ俺はそろそろ帰るわ。」
暁「おう、それじゃ明日料金5000円ちゃんと持って来いよ~。」
真「うげっ、マジ?」
暁「冗談冗談、じゃあな。」
輝咲「お気をつけて~。」
真「おーう、そんじゃ!」

 真は颯爽と家に帰っていった。

暁「さてっと、榊さんはこの後どうする?」
輝咲「鳳覇君と会ったら、ARS本部に戻ってくるように言われてますので。」
暁「そっか・・・って、そういやARSの本部って東京にあるんだろ?」

 初めて吉良のおっさんと会った時、彼は東京から来たと言っていた。
福岡から東京までは空の便を使ったにしても1,2時間はかかる。

輝咲「そうですよ、でもARSの最先端技術では片道20分弱で行くことができるんです。」
暁「片道20分か・・・俺も一緒に行っていいかな?」
輝咲「いいですけど・・・どうかされたんですか?」

 正直なところ、その最先端技術とやらに興味があった。だが本命はそれではない。

暁「ちょっと、吉良のおっさんに言いたいことがあってさ。」


 -11/29 PM10:05 地下鉄駅-

暁「地下鉄・・・?」
輝咲「いいえ、その下です。」

 そういうと、地下鉄駅内部の関係者以外立ち入り禁止のドアを開けた。中には駅員が1人居る。

駅員「誰だ、君達は?ここは関係者以外立入り禁止だぞ。」

 やっぱり、そう言われると思った。だが榊は動じずに胸ポケットからカードを出した。

輝咲「ARS特別員です、本部までお願いします。」
駅員「おぉ、これは失礼。準備はできてるぞ。」
輝咲「ありがとうございます。
   さ、鳳覇君行きましょう。」

 そういうと、駅員は奥に見える階段への道を通してくれた。階段かと思ったら、一歩踏み出すと自動で動き出した。
エスカレーターだという事実に少し驚いた。

暁「慣れてるんだな。」
輝咲「実は、私も使うのはまだ2回目なんですよ。
   吉良司令の言ってたのを真似ただけで・・・。」

 ちょっと照れながら輝咲が答える。

輝咲「鳳覇君、アレです。」

 輝咲がエスカレーターの下に見える筒状の新幹線を小型化したようなフォルムの物を指差した。最先端技術というにはちょっと無理がありそうだった。
その隣まで辿り着くと、ドアが左右に自動で開いた。中は窓際に横椅子が並んでいるだけだった。

暁(これが最先端ねぇ・・・。)

 率直な感想だった。中身をあれやこれや見ている内に上の電光掲示板が光りだした。5、4、3、2、1・・・。

暁「ぐっ!?」

 慣性の法則が働き、俺は勢い良く床に叩きつけられた。

輝咲「だ、大丈夫ですか!?」
暁「いってて・・・・・まぁ、なんとか。」

 よろけながら俺は榊の隣に座った。
 福岡から東京まで約1,100km。それを20分弱で行くということは時速3,300km近く出ているということだ。
マッハにするとマッハ3ほど出ているというとこか。最先端技術とやらを少しなめていた。
 それはそうと、20分間この新幹線1車両程度の広さの空間で榊と2人きり。このまま無言で過ごすというのも男が廃る、と真ならいいそうな気がする。
何を話せばいいことやら。そう考えているうちに先手を打ったのは榊だった。

輝咲「鳳覇君は、その・・・お料理上手ですね。」

 榊にしては珍しく個人的な事を聞いてきた。

暁「そ、そう?あんまり褒められたことはないけど。
  毎日作ってるうちに腕が上がってきたのかな。」
輝咲「毎日作ってるんですか?」

 驚いた表情で俺を見た。きっと未来の世界も家事は女と決まっているのだろう。

暁「俺一人暮らしだからさ、親父も御袋も1年で数回しか会わないんだ。」
輝咲「淋しく・・・ないんですか?」
暁「もう慣れちゃったからな、物心ついた時から親ってそんなものなんだって思ってた。
  榊さんの家族は?」

 ちょうどいい波だったので、俺は軽い気持ちで聞いてみた。

輝咲「私は、幼い頃に両親とも戦争で亡くして、ずっと施設で育てられました。」
暁「ぁ・・・・悪ぃ、思い出させちゃって。」
輝咲「いえ、もう大丈夫です。
   でも・・・外に出た時、お母さんと手を繋いでいる子が凄く羨ましかった。」

 榊が淋しそうな顔をした。俺は訊かなければよかったと後悔した。

暁「ただの気休めかもしれないけど、小さいとき親父がこう言ってたんだ。
  "俺に会いたいと思うな、俺を忘れていたほうが別れが来たときに辛くなくなるから"って。」
輝咲「なんとなく、分かる気がします。」
暁「不謹慎だけど、俺たちはそういう点では少し得してるのかもしれないって思うんだ。」

 強がっている自分が苦しかった。全然俺は得なんて思っていない。

輝咲「私と鳳覇君の出会いも、最後はそうするべきなのでしょうか。」
暁「それは無いぜ、もう俺は出会った日のことを一生忘れられないと思う。
  だから別れがこないように俺が榊さんを守る。」
輝咲「鳳覇君・・・・。」

 少し榊の顔が晴れた。少し目に涙を浮かべている。

暁「あー、あと"ソレ"なんだけどさ。」
輝咲「・・・?」
暁「どうせ俺らこれから長い付き合いになるんだし、下の名前で呼ばない?」

 どこかで聞いた台詞を言ってみた。そういえば、真が俺に言った言葉だった。正直"榊さん"とは言い辛かった。
今後呼ぶなら"輝咲"と呼んだほうが呼びやすい。

輝咲「ふふっ、それじゃ丁寧語も無しにしてみよっか、暁君。」
暁「なんだ、普通にできるじゃんか、輝咲。」

 輝咲の微笑む姿、一生心に残しておきたかった。
 
 それから互いの事を話しているうちに、マッハ3の新幹線はARS本部へと到着した。どうやらARS本部の真下に位置しているらしい。
そこからはエレベーターで上まで移動した。


 -11/29 PM10:34 ARS総本部司令室-

 俺は初めて見るARS本部の壮大さに驚いた、テレビでみた某有名企業の社内よりも明らかに優れた造りになっている。
どのフロアの天壌も見上げると首が痛くなりそうだ。
 そしてエレベーターで辿り着いた司令室も学校の体育館半分並みの大きさを有しているようだった。

剛士郎「おぉ、榊君おかえり。お、鳳覇君も一緒か。」

 吉良のおっさんは嬉しそうに俺たちを歓迎した。

暁「吉良司令、さきほどはすいませんでしたっ!
  俺、自分が何なのか分かんなくなって、八つ当たりしてしまって。」

 さすがにあのままだと俺の気が治まらない。俺は大きく頭を下げた。

剛士郎「自分が何なのか、答えは出たかな?」
暁「はい、俺は"鳳覇 暁"です。ドライヴァーだろうと何だろうと、俺は"鳳覇 暁"としてここにいると。」

 俺の答えを聞くと、吉良のおっさんは力強く頷いた。どうやら彼もこの答えを望んでいたらしい。
望まれてなくとも、俺はこの答えを変える気はないが。

暁「あと、お願いがあります。」

 もう後戻りは出来ない。だが後戻りなんてのは関係ない、もう振り返らない。後悔もしない。俺は俺だから。
俺が進む道は俺が決める。

暁「俺もARSに協力させてください。」

 一瞬吉良のおっさんが驚いた顔を見せた。

暁「未来を守るとか、あんまりよく分からないけど、俺には俺にしかできないことがあるんだって分かったんです。
  今は今でリネクサスが攻めてくる、俺はそれから皆を守る力がある。
  俺はドライヴァーになった事を受け入れる、だからドライヴァーとしてやるべきことをやりたいんです。」
輝咲「・・・暁君。」

 輝咲の嬉しそうな呟きが少し耳に入った。

剛士郎「その言葉、待っていたよ鳳覇君!我々ARSは鳳覇君を歓迎しよう!!」

 吉良のおっさんの力強い返答が司令室にかすかにこだまする。

暁「ただ一つ、条件っていうか、お願いがあります。
  俺の機神をあまり"サンクチュアリ"と呼ばないでください。」
剛士郎「ほぉ、それまたなんでかな?」

 吉良のおっさんは喜びのポーズのまま、頭の上にはてなを付けた。

暁「サンクチュアリは"聖域"という意味を持つ、サンクチュアリ・ノヴァは聖域でもなんでもない。
  だから俺はアイツをずっと"アルファード"と呼び続けます。」

 俺は頭の隅では名前の意味をずっと考えていた。サンクチュアリ、聖域。もしサンクチュアリ・ノヴァを聖域をかけるのであれば間違いだ。
あれは聖域でも何でもない。ただの広範囲攻撃の兵器だ。そんな物騒な名前はいやだ。
それなら、今までどおり俺はアルファードの名前で呼び続けたい。

剛士郎「なるほど・・・面白い意見だ。
    分かった、あの機神をサンクチュアリと呼ぶのはやめよう。」
暁「ありがとうございます!」

 意見が通って、俺はホッとした。

剛士郎「それじゃ、私も一つお願いしようかな。
    鳳覇君はあまり敬語を使わないこと、君は普通に話している方が似合っているからね!」
暁「わかりま・・・・、分かったぜ、司令!」

 言われた通りに俺は返答した。最初は変なおっさんだと思っていたが、こんなにいい人であるとは思わなかった。

 こうして俺はARSのメンバーとなった。これから幾度となくリネクサスとの戦闘が行われるのだろう。
何度も言うように、俺は後戻りも後悔もしない。ARSに入ると決めたからには最後までその意志を貫き通してやる。
ここにあるのは他の何者でもない、ここにあるのは"鳳覇 暁"だからだ。


EP04 END


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